韓国書院建築の白眉
書院は、朝鮮時代(1392~1910)に各地方に設立された私設教育機関で、学問を研究して後学が師匠を称えるという2つの機能を持っていたため、書院の空間は大きく教育が行われる講堂領域と、祭祀が行われる祠堂領域に分かれています。儒教国家の朝鮮では、儒教の徳目である孝と祖先崇拝をより大切にし、講堂よりも師匠の位牌を奉安した祠堂領域が重んじられていました。そのため、山を背にして傾斜面に建てられたほとんどの書院では、前学後廟と言い祠堂を最も高い後の方に配置し、その下に傾斜地形に沿って講堂、宿舎、正門の順に設けました。そして書院の正面に川や渓谷の美しい自然景観が見えるように配置し、こういった細かい気遣いのおかげで儒学生は自然を友に学問に集中できました。2019年には韓国書院の文化遺産としての価値が認められ、全国に分布する計9ヶ所の書院がユネスコ世界遺産に登録されました。なかでも、慶尚北道安東にある屏山書院は「韓国書院建築の白眉」と呼ばれ、建築的価値が高く評価されています。
書院最大の建築的特徴は、途切れることのない空間の流れにあります。正門の復礼門を開くと、ヌマル(高床の縁側)からマダン(庭)、講堂を経て裏庭まで視線が遮られることなく見渡せます。その視線を追って入っていくとヌマルの晩対楼が現れ、その下を通って階段を何段か上がると書院の中庭が現れ、その左右には儒学生の寮の東斎と西斎があります。再び視線を追って教育空間の入教堂に上がり、テチョンマル(板の間)に腰を下ろすと、韓国伝統建築最高の名場面のひとつが目に飛び込んできます。屏山の青い絶壁と古い松の木、うねる洛東江と砂浜が晩対楼の作るフレームの中で見事に調和し、思わず感嘆の声が上がります。このような景観を演出するために、書院の建築家が地形の傾斜や建物の段差をいかに巧妙に設計したかが分かります。
晩対楼は、書院の美しさの中心となる建築物です。晩対楼の美しさは、建物の規模ではなくそのナチュラルさにあります。下の柱は、木材を手入れせずそのまま使ったため同じ形の物がなく、柱が立てられた礎石も手入れをしていないため、まるで昔から土の中にあった岩の一部のように見えます。屋根の構造にも曲がった丸太をそのまま活用するなど、職人が残した数々の痕跡には「自然の中に留まり、自然とひとつになる」という韓国伝統建築の特徴がよく表れています。